2011/10/31

レビュー(21) Mani Neumeier小特集

ほんの思いつきでマニさん関係を3枚ほどレビューしてみようと思います。

マニ・ノイマイヤー&ペーター・ホリンガー(MANI NEUMEIER&PETER HOLLINGER)
CAPTAIN TRIP RECORDS キャプテン・トリップ・レコーズ
発売日:2007-03-20

★★★★☆
Mani NeumeierとPeter Hollingerという二人のドラマーがバリに訪れて現地のガムラン奏者と行った狂乱のセッションを収めたもの。もともとトライバル志向の強かったノイマイヤーのソロアルバムの延長といえる。

二人のドラマーが参加しているだけに、単なるワールドミュージックでなく、一種独特の快楽性・中毒性のあるトランシーパーカッションサウンドになっている。ガムランの限られた音階・ミニマルに繰り返されるドラムス辺りがサウンドの肝か。先に書いたように、ノイマイヤーはソロアルバムでトライバル志向が強かっただけに(Privatなど)、ツボをわきまえたドラムスで見事にガムランをサポート。トライバルサウンドを快楽へと押し上げていて、ワールドミュージックでもクラウトロックでもないレベルにサウンドを導いている。

近い存在として、日本のディジャリドゥ奏者GOMAの関連プロジェクトや、同じクラウトロックのドラマーJaki LiebezeitのDrum Off Chaos作品(レビュー済み)などを想起させる。両者ともトライバルなサウンドに西洋的なドラムキット導入して融合させ、新たなるエスノサウンドを作り上げている好例。Rovoなども思い出させる部分も。

リーベツァイトといえば初期CANにおけるトライバルなドラミングが著名で、この盤もその影響下にある一枚といえる。本来の意味でのトランスサウンドに興味がある人におすすめ。

マニ・ノイマイヤー(MANI NEUMEIER)
CAPTAIN TRIP RECORDS キャプテン・トリップ・レコーズ
発売日:1998-01-31

★★★☆☆
93年作。折からのテクノブームによるクラウトロックの再評価に乗って、Mani Neueierの再評価に繋がった歴史的名盤。湿気たフュージョンになってしまったGuru Guruで評価がガタ落ちだったマニさんの「今」が、この盤によって見直されるようになった記念すべき一枚。初版は特製木製ケース入りだが、これは後でキャプテントリップが再販した紙ジャケット盤。元々はマーキーのクラウトロック集成に載っていた憧れの一枚でした。

その「原始」というタイトル通り、ドラムキット一丁(内ジャケに全裸のマニさんの写真入り)でマニさん独自解釈のトライバル/エスノを表現した作品。ドラムスのフレーズの連呼に、ベルやヴィブラスラップ、スティールパン等のパーカッションや奇妙なヴォイスが加わり、独自の世界を作り上げている。後の作品のようなノリノリのトランシーさはないもの、地味にやりたい放題やっている感じが伝わってくる快作。当然マニさんにテクニックはあるものの、決してそれをひけらかす作りになっていないのも重要な点。

ドラムキット=西洋楽器を使っていることによるエスノの混交による新たなるエスノの創造と言ったら大袈裟か。しかし、この後のマニさんによる諸作品のキーポイントの一つがそこにあると思う。もう一つはクラウトロックの持っていたミニマル感/トランス感を現代に蘇らせたこと。それはマニさんが担っていたものでもある。言うまでもなく、高名なZero Setセッションに加わっていたから。

クラウトロック再評価の一翼としても、ロックの歴史としても重要な一枚。

マニ&コニー(MANI NEUMEIER&CONNI MALY)
CAPTAIN TRIP RECORDS キャプテン・トリップ・レコーズ
発売日:2001-09-25

★★☆☆☆
Mani NeumeierのテクノプロジェクトLover 303。タッグを組んでるコニーは残念ながらコニー・プランクではなく(当然?)、Conni Malyというマニさん周辺で活動している人物(女性だろうか?)。マニさんのテクノ作品ということで、名盤Zero Setに近いアイデアといえばアイデアだが、メインがメビウスの奇妙なシンセと違い、303とあるようにアシッドシンセが主体になっている。他にはスポークン・ワード(全般)、ギター(#1#8のみ)が使われる。4つ打ちが使われるがマニさんがエレドラを叩いているのか、それとも打ち込みなのかは不明。ドラムスの叩き方もリズムキープはシンセ音に任せて、オカズ主体のクリスピーなスタイルになっている。

もう少しマニさんのドラミング主体にしたほうが面白かったかも。クラウトロックでもZero Setには残念ながら遠く及ばず、同傾向のLiebezeitのClub Off Chaosの方が完成度は上。マニさんもBurnt Friedmanのようなテクノ/エレクトロニカの最前線で活動している良いパートナーを見つけてほしい。でも、このアルバムもマニさんのドラムを中心に聴いていれば十分に楽しめて、そこまで酷いわけでもない。でも人力テクノ(死語)的他作品のほうが楽しめる。

2011/10/17

レビュー(20)

Blood of Heroes
Ohm Resistance
発売日:2010-04-06

★★★★☆
Bill LaswellとJustin K Broadrickのコラボレーションにして、メタル+ダブステップという新ジャンル、メタルステップ/メタルダブステップの嚆矢とされる一枚。2010年発表のファースト。しかしラズウェルによる生演奏ドラムンベースプロジェクトSubmergedのメンバーや、最近メルツバウとコラボレートしたBalazs Pandiなどが参加し、単なるメタル+ダブステップにならず、生楽器を大幅に取り入れる方向性になっているのが特徴。

#1からラガ・ダブステップに重金属ギターが乗り、このプロジェクトの方向性をはっきりと示している。ドラムスは生音を切り刻んで使っている模様(Submergedと同じ手法)。途中からドラムンベースに変化する。#2は生演奏ダブステップ。#3はメタルギター、ワブルベース、やはり生を基本としたドラム、トースティングで構成される。#4はドラムスが切り刻まれドラムンベースになり、メタルギターなどが乗る。BPMが高めで、最近の8ビート系ドラムンベースにも近い。#5は生音ドラムにポストロックのようなディレイギターが乗る(そういえばジャスティンのJesuは最近ほとんどポストロックになっていた)。#6は生ドラムやぶっといベースにスポークン・ワードが乗る異色作。しかしそれほど異物感はない。#7はJesuそのまんまのギターで始まる。コード進行もJesuっぽい。細切れのブレイクが所々挿入されるが、ドラムンベースと言えるまでには至らない。#8はドラムンベースにメタルギターが乗り、ハードコアテクノのようになっているが、途中でリズムの変化がある。#9はシンセパッドから、BPMの遅いメタルダブステップがビルドアップされていく。#10は生演奏でダブステップをやるならといったような曲が、メタル+ドラムンベースに展開する。

エレクトロニカ寄りの盤が多い近年のダブステップと比べて、ラズウェルの趣味を反映してかドラムンベースからハードコアまで幅広い音作りになっている。そして生楽器の演奏中心。もう少しストレートに「メタルダブステップとはこうだ」と言うようなサウンドが聞きたかった気がしないでもないが、ここまでダブステップの新展開を見せてくれただけでも有り難いか。また、ダブステップファンだけでなく、インダストリアル・メタルのファンにもアピールしそうな内容。

Richard Devine
Schematic
発売日:2001-12-25

★★★☆☆
音楽として捉えるのも困難なほど異常に複雑なプログラミングで、「オウテカを超えた」とも言われていたRichard Devineの2001年作。数曲はビートがあるものの、ほとんどビートレスの奇妙なドローン状になっており、とにかく特殊で複雑極まりないサウンド。某書では「細分化された重層的構造を援用しつつも、あくまでも根源的なプログラミングのスキルで乗り越えようとする」なんて書かれました。分かるような分からないような。とにかく複雑なプログラミングのアウトプットと思われるサウンドが特徴。短い活動期間でシーンから消えてしまったのが残念。

2011/10/05

レビュー(19)

Picastro & Nadja
Broken Spine
発売日:2011-09-20

★★★★☆
極度に多作なドローンメタルデュオNadja。今度は個人的に知らないPicastroというバンドとのコラボレーションを発表しました。Picastroは同じトロントのトリオで、ステージも共にしているようです。A面4曲がPicastroサイド、B面1曲がNadjaサイドとなっていますが、A面はNadjaのメンバーも参加しています。

このPicastroというバンドの音楽性が特殊で、ベース+ドラム+ヴァイオリン(女声Vo.)のトリオ。ドゥーム・ロックと某ショップで紹介されていましたが、まさにそんな感じで、スロウで陰鬱なロックを奏でています。これも例えばドゥームジャズのBohren & Der Club Of Goreのように、ドローンメタル/ドゥームメタルの一側面といえるのではないでしょうか。スロウなロックサウンドということで、スロウコアを思い出される方もいるかも知れません。確かに似ている部分もありますが、独特の陰鬱な世界観は幻想的なスロウコアの世界とは一線を隠しています。

B面のNadjaはいつもどおりw 流石としか言いようがありません。

とにかくこのPicastroというバンドのサウンドに触れるだけでも価値があると思います。流石Aidan Baker、世界中にドゥーム/ドローンメタルのネットワークを張り巡らしているようです。アナログにはDLクーポン付き。